羽田浩司事件の整理 ー 『それでも僕を殺すというのですか』

コナンファンの度肝を抜いた16年越しの登場

秀吉「僕の義理の兄であり最も尊敬する羽田浩司という棋士が…座右の銘にしていた格言です…」

由美「羽田浩司?」

灰原「……」

(中略)

灰原「ねえ、あなた知ってる?羽田浩司…」

コナン「ああ!七冠王に最も近い天才棋士だったけど…」「趣味でやってたチェスの大会に出るため渡米してて…その最中に事件に巻き込まれて亡くなったんだよな?」「苗字が同じ羽田だったから親戚かもって思ってたけど」「まさか太閤名人の義理の兄さんだったとはな!」「ーってその名前がどうかしたのかよ?」

灰原「その名前…見た覚えがあるのよ…APTX4869を飲まされた人物リストの…あなたの名前の2つ下にね…」

89巻ファイル10 

89巻の羽田浩司「再」登場に関しては多くのファンが度肝を抜かれたのではないかと思う。いまでも、89巻で「羽田浩司」の名が出てきて、灰原がAPTXの投与リストに名前があったとコナンに告げるシーンの衝撃といったら忘れられない。

当時は考察や組織編に関する考察も他の人のをチラ見するくらいだったから、羽田秀吉っていう由美さんの元カレが最近原作で出た、という程度の認識しかなかった。

いや、原作をつぶさに呼んでいたひとでも、「羽田」という名前と投与リストの関連性を見つけ、それがその棋士の殺害事件にまで発展すると読めていた人はほとんどいなかったのではないだろうか。羽田浩司が関わった事件は、いまや組織ナンバー2のラムや、ボスとされる烏丸蓮耶まで関わってくる、コナンのお話の中でも最も難解な話の一つになっている。

16年前のコミック18巻「黒の組織から来た女」の段階では現在まで続くコナンのお話の大枠は描かれていたと思うが、この「羽田浩司」が緻密に計算された伏線なのか、後で追加した要素なのか。

聞き手さん「…そもそもなぜ由美のパートナーとして秀吉を登場させたのだろう?」

青山先生「なんでだったかなあ。そろそろ由美の相手も出したいなあと思っていたんですよ。(中略)メアリーの設定も、世良ちゃんを出すことになったとき、彼女が来日する理由を考えなきゃっていうんで決めたから……最初から伏線を張っているように見えるかもしれないけど、実は全部あとづけなんですよねえ」

(中略)

青山先生「やーほんとに感覚やあとづけで決めていることが多いんですよ」(中略)「ただまあ、最初はなんとなくでも、キャラクターの設定はそれなりにしっかり作っておくから、あとから『彼だったらこう動くな』『じゃあ、この物語はこんなふうに繋がっていくな』と組み立てやすい、というのはありますね。そういう意味では、感覚が起点だとしても展開は論理的に考えています。」

ダビンチ2020年6月号46pより

青山先生はけっこう「あとづけだよ」とバラしちゃうけど、ここで答えているとおり追加したエピソードやキャラクターの設定が死ぬほど論理的で緻密なのが本当にすごい。

その後付もどこまで後付けでどこから計算なのか、何かに使おうと考えてはいたのか、とか。そのあたりも、気にはなる。ラム編において「ラムは誰?」と並ぶ謎「羽田浩司事件の真相」について、分かっていることを整理したい。

現場で確実に起こった出来事

これから先は、ラム編の謎の一つである繰り返しネットに流れる羽田浩司事件の情報を出発点とする。無論、この内容そのものが誤りだったり、流している人物によって意図的に変えられている情報があるの可能性もある。

ただ、一つ確実なのはこの情報は組織によって流されたものではないということ。組織は自分たちの存在が露見したり、何らかの事件に関わることをとても恐れているのはこれまで積み重ねられてきたとおり。

灰原「それより引っかかるのは荒らされたまま放置されたこの部屋…」

「組織の仕業ならこんなこと有り得ない…」「何事もなかったかのように立ち去るのが彼らのやり方なのに…」

89巻ファイル11

ということで、ここから先はコナンらが最初に接する羽田事件についてのこの記事の内容は正しくて、それを流しているのは組織側でないという前提で見ていく。 

羽田浩司とアマンダが殺害された

コナン「羽田浩司…」「今から17年前…当時将棋の四冠王だった彼は…その冠を携えて趣味にしていたチェスの大会に参加すべく渡米したが…」「その大会前夜…宿泊していたホテルの部屋で…何者かに襲われ死亡…」「部屋はかなり荒らされていて…殺される際、羽田も抵抗したようだが…直接の死因は不明…」「同日、同じホテルの別の部屋で亡くなっていた…アメリカの資産家アマンダ・ヒューズの死因も分かっておらず…」

「アマンダが羽田の大ファンで交流があったことや…その日以来、アマンダが帯同していたボディガードが姿を消していることから…アマンダが「浅香」と呼んでいたボディーガードを最重要容疑者として行方を追っているが…その消息はまだつかめていない…」

「なお、その、浅香のという人物の身元は謎に包まれていて、アマンダの家族や関係者も、アマンダがその人物を雇い入れた経緯を知る者はいないらしい…」
コナン「おい?浅香って奴知ってんじゃないのか?」
灰原「さあ…聞いたことないけど…」
89巻ファイル11

事実関係の部分では、羽田浩司と組織との関係をコナンが知る前から、コナンは一般常識の範疇といったニュアンスで事件の大枠を述べている。したがってそのコナンの前知識とネット情報の一致点は確定的な事実として考える。具体的には

・事件は17年前

・当時羽田は四冠

・趣味はチェスで、大会参加のため渡米

・渡米中にホテルの部屋で殺された

そして、この記事でコナンが最初に知るのは

・大会の前の夜にホテルの部屋で何者かに襲われ死亡。死因は不明

・部屋が荒らされていた

・羽田は抵抗した

・同じ日に米国の資産家アマンダ・ヒューズもホテルの部屋で死亡。死因不明。

・アマンダは羽田のファン

・最重要被疑者は「浅香」

・浅香はアマンダのボディガー

以上のように整理できる。
博士「しかしなんで日本の将棋指しが彼らに殺されなきゃならんのじゃ?」
灰原「組織にとって邪魔になったその資産家が殺されるところを偶然目撃してしまったとかなんじゃない?アマンダはFBIやCIAにも顔が利く人物だったらしいし…」
コナン「アマンダが羽田浩司の部屋を一度訪れたのは…確かなようだしな」「彼の部屋のドアのノブやソファーやティーカップや皿やフォークなどにアマンダの指紋がついてたみたいだぜ?」
灰原「ルームサービスで紅茶やケーキを頼んで…アフタヌーンティーでもしてたのかしら?」「部屋を荒らされたときにその食器類は叩き割られてしまったようだけど…」
コナン「ああ…部屋中にJukeってホテルの名前入りの皿やカップの破片が散乱してたようだ
…」
89巻ファイル11

博士の疑問はもっともで、実は重要。灰原はアマンダが殺害されたところを目撃してしまったから、と言っているが、推理するキャラではない灰原がコナンより先に話す推測なので、正解ではないだろう。

そして若狭の登場によって、灰原の推理はハズレであったことが分かった。

若狭「(御守り…御守り…)」

羽田浩司〈回想〉「『遠見の角に…好守あり』ってね…」「それでも僕を…殺すと言うのですか?」

若狭「(馬鹿な奴…)(馬鹿な…)(馬鹿…)」

(若狭、右目を押さえて倒れる)

97巻ファイル8

この若狭の回想によって、羽田は巻き込まれて殺害されたのではなく、何者かが主体的に羽田を狙って殺害したことが分かっている。

これに加え、将棋という漢字文化圏で楽しまれている文化について、アマンダがファンだから羽田と接点があったというのは腑に落ちない。羽田がイケメンだった、とかみたいな気が抜ける理由の可能性もあるけれど…。

可能性としては、羽田がメインのターゲットで目撃してしまったのはアマンダのほうだったとか、ふたりともターゲットだったとか。

そもそも、アマンダと羽田浩司双方がお互いを殺そうと思ったのかもしれない。羽田が組織の構成員だったとか、あるいはアマンダが構成員だったなど。ただ、羽田浩司は秀吉が最も尊敬する棋士。その羽田浩司がアマンダを殺そうとした、というのはちょっと考えづらいというか、何者かに脅されてやむなく殺したという可能性はなくはないんだろうけど、コナンではこれまでいい人=コナン側についた人が寝返って敵になったことがないのので、いまのところ羽田浩司がアマンダを殺したという状況証拠は見つからない。

まあ現状いちばん可能性が高いのは、羽田がメインのターゲットで目撃してしまったのはアマンダのほうだったか、2人ともターゲットだったかのどちらかではないだろうか。

アマンダの人物像

アマンダはFBIやCIAに顔が利く人物だったらしい。これは組織的には暗殺の対象となるある意味典型的な人物。ブラックインパクトで土門康光を殺そうとしたことが思い出される。

もちろん、この情報から逆にアマンダが組織の関係者だったという線も考えないといけない。ピスコこと枡山さん方式で、諜報機関と話ができる組織の構成員というのもまた、十分ありえる線だろう。何かしらヘマをして、ピスコみたいに殺された、とか。

前述したとおり、アマンダが本当に羽田のただのファンだったというのは無理があると思う。となるとアマンダと羽田の関係は、組織に関わるなにかビジネス的な関係か、友人知人、アマンダと同様資産家であるという羽田家というところから何らかの接点があったのかもしれない。

マンガに出ているアマンダの顔は老婦人という感じ。とくに特徴もない。顔から何者かとの血縁を示したいのなら、目とか髪の毛とかもっと細かいところまで描いていそうだ。

浅香の不気味さ

浅香が少なくともアマンダのボディガードとして周囲に認識されていたのは確か。資産家で、諜報機関にも顔が利く人物なら、ボディガードを帯同しているのはとても自然なことだろう。「浅香」というのはアマンダがそう呼んでいたということで、素性などはまったく分かっていない。
ここで考えるべきは描かれているピンぼけの浅香の姿。得られる情報としてはなんか後ろで髪を結んでいるように見えるのと、シャツの襟を外に出してて、なぜか手のひらを前に出している点。
ここから得られる情報といえば、髪の毛やシャツの着こなしから女性である可能性があることだ。そもそも、アマンダは女性だから、ボディガードを雇うなら女性のほうがお手洗いの時や出先でホテルに泊まったりするときなどには帯同しやすいはず。むしろ男性を選ぶのにはそれなりの理由がいる気がする。
無論、大岡紅葉みたいに男の執事兼ボディガードを連れている人もいるけど、個人的にはこの二人は劇場版出身でキャラありきの本筋には関わらないキャラだと考えているのでスルー。

対称的な現場の状況

コナン(中略)「部屋はかなり荒らされていて…」
(中略)

灰原「それより引っかかるのは荒らされたまま放置されたこの部屋…」

「組織の仕業ならこんなこと有り得ない…」「何事もなかったかのように立ち去るのが彼らのやり方なのに…」「実際殺された資産家の部屋はそうだったみたいだし…」

89巻ファイル11

 羽田の部屋は荒らされていた一方、アマンダの部屋はいつもの組織のやり方だったとのこと。書き手が読者にむけた意図から演繹すると、部屋の様子の違いから
    ①二人を殺した人物の性質
    ②二人を殺した順序
    ③二人を殺した理由、殺すことになった経緯
を考えるヒントにしてくれ、ということかもしれない。
 
アマンダの部屋の状況に関する推理は灰原の口から。この89巻のエピソード全体に言えるが、灰原の推理はミスリードである可能性や、灰原自身がわざと本当のことを言っていない恐れが拭えない。
ただアマンダの部屋がまったく荒らされていない点や、羽田浩司が何者かにおおそわれて死んだことが公になっている一方、アマンダは死因や他殺かどうかさえ分かっていないことは事実としてあり、灰原の解釈から生まれたものではない。

ダイイングメッセージが残された

コナン「ん?割れた食器の中にガラスも混ざってるな…鏡か?」「何か文字が書いてある…PTON?」
灰原「入っていた文字は多分…PUT ON MASCARA…」「丁度その頃ある化粧品メーカーがマスカラ手鏡を付けて売り出したら大ヒットしたらしいわ…『マスカラをつけよう』
って文字を入れてね…」「私の姉も母の遺品としてその手鏡持ってたから…」
コナン「でもなんでそんな手紙が羽田浩二の部屋に…」
博士「ウーン…殺された資産家は80歳を超える老婆じゃったらしいし…」

灰原「もしかしたら羽田浩司も母とかからもらったものかも。棋士なら身だしなみにも気を遣っていただろうし…」

89巻ファイル11

このメッセージは表エピソード「17年前と同じ現場」後にコナンと赤井が解いたように「ASACA RUM」で解決され、その後赤井と優作が再推理し 「CARASUMA」となったので、今となっては、この解釈で考察が分かれている状況。

事件に関与している人物

黒田兵衛

92巻のゲスゴルファー事件で若狭を認識し、93巻では羽田浩司事件をPCで見ている。これがコナンらがみた何者かがネットに定期的に流しているものなのかは分からない。90巻ファイル3の時点でその前にコナンと灰原が見ていた記事は消されたみたいだけど、ネット記事は要素を取得しておけばいくらでもローカルにアーカイブできるし、黒田のPCの画面はスクリーンショットかもしれない。

コミックのほうを確認してみると、黒田が見ている割れた手鏡はコナンがみていたネット記事と同じ画像のように見えるが、一方で傷を負い倒れている羽田浩司の姿は黒田自身が回想しているから、別ルートから入手した情報であることがわかる。別の機会に羽田の様子を見る機会があったと考えるのが自然。

そのルートを考えるのは、ほとんど黒田の正体を考えることと同義で、下の別稿でまとめたとおり。

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若狭留美

現状だと、最も関与が深いのは明らかに若狭先生。事件に関する情報のほとんどが若狭先生から出てくる。

若狭「(御守り…御守り…)」

羽田浩司〈回想〉「『遠見の角に…好守あり』ってね…」「それでも僕を…殺すと言うのですか?」

若狭「(馬鹿な奴…)(馬鹿な…)(馬鹿…)」

(若狭、右目を押さえて倒れる)

小林先生「若狭先生大丈夫ですか?」

若狭「は、はい…」

コナン「……」

若狭「最近貧血気味で…」

目を押さえていた…やはり右目に障害が…

灰原「……」

97巻ファイル8

ちなみに、若狭の回想と黒田の回想に出てくる羽田は同じように見える。あえて言えば若狭が回想する羽田のほうは吐血している様子だが、黒田のほうにはない。97巻「死体はダーリン」は血のにおいにコナンらが感づく場面があるから若狭の回想には吐血が入っていたのだろうか。

黒田の回想のほうに吐血した描写がないことを理由に何らかの結論を導くのはちょっと無理筋な感じがする。考えられる可能性としては、吐いた血や羽田の手についてはさみを握った痕まで回想していた若狭のほうが現場にいて、顔だけだった黒田は現場写真を見た、とか。

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ラム

ウォッカ「おっ死んだらしいですぜ… 羽田浩司の事件を探ってた…」「堀田凱人…」

ジン「フン…17年前にラムが抜かった仕事(ころし)なんざ知った事か…」

90巻ファイル5

ラムの関与はジンが教えてくれている。しかも羽田浩司事件で何らかの不手際があったとのこと

事件では羽田とアマンダはともに死んでいるので、目的がこの2人の殺害のみだったら失敗したことにはならない。失敗として考えられるしたら

・浅香を殺害できなかった

・羽田と争い現場が荒れ、ダイイングメッセージまで残されてしまった

両方ともジンがいう「抜かった」にあたる。どちらも含めて「抜かった」といっているのかも。

たしかに、アマンダのように羽田も何事も無かったかのような部屋でAPTXでアマンダのように死んでいたら、事件として処理されたかもあやしい。アマンダと関連づけて調査されたかも不明だし。

灰原がいうような完璧な組織のやり方を考えれば、ジンにとってはあれだけ現場が荒れたのは許せないはず。これだけでラムが抜かったと考えるのも無理はない気がする。

 

浅香

その日以来、アマンダが帯同していたボディガードが姿を消していることから…アマンダが「浅香」と呼んでいたボディーガードを最重要容疑者として行方を追っているが…その消息はまだつかめていない…」

「なお、その、浅香のという人物の身元は謎に包まれていて、アマンダの家族や関係者も、アマンダがその人物を雇い入れた経緯を知る者はいないらしい…」
89巻ファイル11

メアリー「で?堀田が入手した情報は何かわかったか?

世良「連行される前に古栗って人が言ってたよ…姿を消したボディーガードの浅香があの手鏡を持っているところを見た人がいて…」「浅香が女だって事を堀田がつかんだみたいだって…羽田浩二の霊を呼び出して『女だ〜〜っ女に殺されるー』って叫ぶつもりだったってね!」

メアリー「そんなことか…くだらん」

90巻ファイル5

沖矢「その世良さんの周りに変わった人とか見かけませんでしたか」
蘭・園子「変わった人?」
沖矢「そう、例えば…絶えず周囲を警戒し危険な相手なら瞬時に制圧する能力に長けた…浅香と言う名の…まぁ、そうは名乗っていないでしょうけど…」
90巻ファイル6

 世良とメアリーの会話がすべてだと思う。世良が古栗から情報について、メアリーが「くだらん」という状況は①すべて既に知っていることだった②本当の情報について詳しく知っているので、堀田の情報がニセだと知っていたーの大きく2パターンだと思う。

ただ、よくよく考えてみれば、警戒心の強いメアリーのことだから、自身がこれまで把握してきた情報とちがった情報がくれば、なぜそんな情報が一般の探偵から出てきたのか気にするはず。

一方、もしメアリーが浅香の正体についてより詳しい情報を把握していたとすれば、この反応はとても自然。さらに言えば、羽田事件の情報をサイトに流しているのにメアリーが関与しているとすれば、堀田はそこから女性だという情報たと推測することもできる。

浅香の性別や人物像については服の着こなしやアマンダとの関係からいろいろ間接的に推理してきけど、このメアリーの反応がすべてではないだろうか。このやりとりだけで断定してしまいたい気分。

そして無論、浅香が羽田浩司事件に深く関わっていることもメアリーは知っている。

〈ここまで2020.7.16。赤井務武については追記する予定〉

 

☆2020年10月13日 メアリーと赤井務武について追記しました

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