ラム=脇田のミスリード説を考える

 

推理ものでミスリードは常套手段

スリードあってこその推理もの

そして、ミスリードあってこその名探偵コナン

正直ミスリードが怖い

 ・・・過去を振り返れば、こう言わざるをえない。

青山先生はベルモット編でジョディ先生や赤井秀一で強烈にミスリードして、長期にわたる伏線張りとその完璧な回収という手腕を確固たるものにした。

そう考えると、脇田=ラムを青山さんがミスリードしたくなってもまったく不思議ではないのが怖いところ(笑)

そもそも過去の組織編と同じなのか

これまでのコナン組織編でのミスリードは、組織メンバー候補者3人のうち1人をもっとも怪しく見せておいて、実は別の1人が本当のメンバーという形。

ベルモット編なら、ジョディ先生が最も怪しく、赤井とジェイムズも明らかに組織側。そして本命は最も日常キャラに近く怪しくない新出先生だった。

ラム編なら、最初に怪しさ満点で登場したのが沖矢。灰原も強く組織臭を感じていた。バーボンを飲んだり、新一のことを探ったり。でもまあ、コナンが信頼していることから実際には早々とミスリード枠からは外れて、安室登場以降はほとんど味方枠。

過去の組織編のミスリードは、このように3人の候補者内での仕掛けだったが、ラム編にミスリードがあるなら、その構造はより複雑な可能性がある。

スリードになる場合、解決しなければならない要素について整理する。

脇田以外の2人の正体がほぼ確定している

複雑になると考えられる最大の理由は、過去の組織編と違って脇田以外の若狭、黒田の正体がほとんど確定しているからだ。

整理すると、ラム編で当てるべきキャラクターは

①ラム

②浅香

③公安の裏理事官

で、候補者3人は登場順に

①黒田兵衛

②若狭留美

③脇田兼則

このうち、唯一の女性キャラで一致する若狭は置いておいて、現状黒田が警視庁捜査一課管理官以外の顔を持っているとしたら、非常に複雑な話になる。

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上記記事で触れていることを簡単にまとめると、安室の正体が公安部のスパイだと確定しているため、可能性として安室に指示を出し得る人物がラムか公安の裏理事官しかいない中で、黒田がラムなら安室の潜入がバレないとおかしい、という話。

「黒田兵衛」という人物本人かは不明でありながら、立場としては安室の上司=公安の裏理事官以外が考えられない状況になっている。

つまり、実質的に黒田と若狭の正体が確定している中でどういうミスリードが構築可能なのか考える必要がある。

安室の目の書き分けはハズレ?

 目       エピソード

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・初登場時

・日常

・RUMって知ってるよね

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・これが僕のコードネームです

・出ていってくれませんかね

・ラムメール

・抜かったな…

一時期盛んに言われていた安室の目のかき分け。下記記事で検討した。

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このような推理から、ラムは2人いて、安室は携帯を使い分けているという考察があった。

改めて検討すると、かき分けはなされているけど、安室の緊張感というか精神状態を反映しているような、あくまで芸術としての漫画の表現技法という印象がある。

したがって、ラムメールのかき分けは送信者に依存したものなのかは不透明になってきたという印象。

RUMとラム

このブログでは「ラム」と一貫して書いている。(単にそのほうが打ちやすいだけです)

表記  人物
”ラム”

「ラムがぬかった仕事」(ジンが1回だけ*1

「ラムよ…」(灰原*2

「(大和を見つめて)まさかこの人…」(コナン*3

RUM

コナン

組織メンバー

 全体としてはRUMにラムのルビ付きがほとんど。しかも同じ人物でもバラバラ。とくに灰原は同じ会話の同じ文脈で両方の書き方をしている。

灰原「あなたが言う黒ずくめの組織のNo.2のコードネームが RUMだってことは知ってるわよ」

コナン「な、No.2?」

灰原「少なくとも私がいた頃はそうだって聞いたわ…会った事はないけどね…」

コナン「そ、それ、どんな奴だ!?男か?女か?」

灰原「だから会ったことないって言ってるでしょ?組織にいた頃噂で耳にした人物像は十人十色…屈強な大男だとか、女のような男だとか、年老いた老人とか…それらが全部影武者だっていう人もいたわ」

コナン「大男に女のような男に老人…」

灰原「ーって…まさかそのが私を捜しに動き出したんじゃないでしょうね!?」

86巻ファイル2 

今の組織のナンバー2がRUMで、灰原がいたときはラムとか、考えられなくもないけど、さすがにここに意味の違いを込めたというのは難癖ではないか。

もしここに青山先生が伏線を込めたとしたらどうしても納得できないことがあって、この伏線はアニメでは使えないことだ

聞き手さん「漫画だと向いていないトリックは?」

青山先生「音ですね。漫画だと聞こえないんで。」

(このミステリーがすごい2021年版P6より)

 青山先生も上記のように言っている。RUMとラムの書き分けは現時点では否定的。

スリードっぽいんだよなあと思う点

黒田の別人伏線

この要素も黒田の人物像を整理したときに触れた。

コナン「 ええっ!?10年近く意識不明で入院してた!?警察病院に!?」

由衣「そうよ!黒田捜査一課長…なにか大きな事故に遭われたらしくて…」

小五郎「なるほど…だからあの年で出向してきたわけか…」

由衣「ええ…本当はもっと若いうちに警察庁から地方警察に出向するのが普通だから…」

小五郎「じゃああの顔の火傷も…」

由衣「ええ、その事故の影響じゃないかしら…右目は義眼みたいだし…」「顔の包帯をとった看護師が腰を抜かしたらしいわよ…真っ黒だった髪が事故のストレスで白髪に変色してまるで別人のようだったそうだから…」

コナン「(別人…?)」

由衣「意識が戻った今も所々、細かい記憶が抜け落ちてるっておっしゃってたけど…」

86巻ファイル10

 黒田の別人伏線がそのままラムの別人伏線につながるわけではないが、ミスリードできるキャラがいない以上、第4の人物を出すしかないので、黒田別人説は有力となる。

黒田に関してここまで臭う怪しさをキャラ付けしておきながら、黒田は本当に大怪我をして入院してました、というような展開は考えにくいというか、一周回って推理モノとしてルール違反な気さえしてくる(笑)

可能性としては、事故に合う前の「黒田兵衛」という人物が実はラムという可能性

黒田が事故の前後で別人に変わっている場合の可能性は下記で検討した

conan-mania.com

しかし、結局この怪しさは読み手である自分の感情的な部分が大きくて、考えるほど「ないなあ…」となる。

上の記事にはなかったラムのミスリード説を敷衍してみる。

入れ替わる前の黒田兵衛を「黒田A

いまコナンらの前に現れている黒田を「黒田B」と考える。

前提として黒田兵衛という人物の基本情報や警察での情報が変わってはおかしいので、黒田Aはと黒田Bは中身以外同じはず。

・黒田Aがラム=脇田だった場合

これはミスリードというより、脇田の出自を表すほう。黒田A=脇田は入れ替わる直前に40歳くらいで、警察庁キャリアパスで言えば警視(本庁課長補佐、都道府県警察本部課長、警察署長など)にあたる。旧国家公務員1種の黒田が現場に出るのはおかしいんだけど、まあコナンの世界では現場に出ているとして、黒田Aは一番ベテランの立ち位置という感じだ。

何らかの出来事があり黒田Aは警察組織から黒の組織に所属を変え、ラムを名乗り、今は脇田兼則として過ごしている。これはありうる。もともと組織から警察へ送ったスパイだったのかも。この場合、羽田事件に関与したラムと脇田が名乗ったラムは別人となる。

ただ、こう仮定すると、かつて黒田Aだった脇田が警察組織を抜けたあと、その後任に自らの替え玉を用意する意味がない。悪側の組織に寝返ったり、悪組織から警察への潜入がバレたのなら、そのまま放っておけばよいはず。リスクを犯してまで替え玉を用意するメリットがない。

さらにここでも安室=公安部所属という確定事実と矛盾する。経緯は不明だけど、黒田Aが悪側の組織に移ったのは事実で、当たり前だが公安部側が自分たちの捜査員が組織側に渡ったことを隠す意味がまったくない。

つまり、黒田A=脇田=今のラムだと、「黒田B」の存在理由が途端になくなってしまうという大きな矛盾が生まれてしまう

・黒田B=ラムも安室に阻まれる

スリードという意味ではこちらが正統。黒田Bは黒田Aと入れ替わった。黒田Aを殺害したのかもしれないし、そもそも黒田Aは架空の人物なのかも。

しかしここでも安室=公安が立ちはだかる。今コナンたちの目の前にいる黒田Bがラムだとしたらなぜ安室の正体に気が付かないのだろう。警察組織にあんなに高い身分で潜入できる黒田B=ラムが安室に気が付かないというのはさすがに無理がある。気がついているが言わないという状況も成り立たない。

博士の紅茶クイズ

緋色のエピローグで出てきた博士の紅茶クイズを振り返る。

博士がお酢が入ったまずい4つの紅茶の中に1つだけある美味しい紅茶を当てるトリックの話だった。結局博士は、お酢入紅茶を我慢して飲んでいたというオチ。

過去のシリーズを照らせば、これはラム編は「3人全員クロ」「怪しいやつ(ラム候補)は4人」という示唆かもと十分解釈は可能。

そしてその後の沖矢のセリフ「トリックは種を明かせばだいたいインチキになる」。

この場面では、不自然でこそないものの、赤井扮する沖矢がこう言う必然性はほとんどない。「インチキ」要素も、ラム編に絡んでいそうな気がする。

なぜこのとき紅茶が4つだったかも不明。まあ探偵団3人と博士の分だから4つといえばそれまでだが、これまでのシリーズ同様のメタ伏線を入れるなら、ここの紅茶は3つであるべきなので気にはなる。

ポストRUM編を考えたときに

「ポストRUM編」は今回考えたワード。簡単にいうと、組織ナンバー2までたどり着いたあと何するの?という予測と考えていただければと思います。

正直やることがない。名探偵コナンという作品における組織編の推進力は常に新キャラクターの登場と正体当てだった。ベルモットも、キールも、バーボンも、ラムも。

でも、ラム編終わったあとも同じ構造が使えるかというと怪しくなる。これ以上出すキャラがない。

もちろん、ナンバー2が出たあとまた癖のある新キャラでまた正体当ての4周目をしてもいいんだけど、個人的にはあまりうれしくない。

スリードに話を戻すと、ポストRUM編を考えたときにRUMが脇田じゃなかったり、RUMが複数人いたりしたらすごくこれまでの組織編を脱構築できて魅力的だなと思う。そういう意味で、ミスリードを願っている自分もいる。

考えすぎで終わるかもな

ラム編がFBI連続襲撃事件で一つの節目を迎えたのは間違いなく、直近の宮野明美同級生回でも脇田がさらに疑わしくなる描写が出ている。

ただ、スリードを考えるのは不可欠なのだけど、あくまで作品分析とは峻別して考えていくしかない。というのも、スリードは可能性を考えたらきりがない。「これも伏線?あれも怪しい・・・」と考えていっては、結局結論が出せないから。

だったら本命=一番可能性の高い解はこれで、ミスリードにはこういう方向性があるかも。という考え方が一番的確な気がする

ラム編で仮に脇田がミスリードであれば、真のラムは黒田でも若狭でもない。第4の人物ということになるが、現状では伏線やヒントが一切ない。

3人のうち誰かに影武者がいました〜とか、大怪我する前の黒田はいまとは別人で、その人が脇田でした〜という可能性はもちろんあるんだけど、黒田別人説が言われてから久しいのにそれ以上の情報が一切ないので推理のしようがない。

若干諦めムードになってきたけど、しばらくは本筋関連の話をしっかりなぞっていくしかないのかもしれない。

 

*1:90巻ファイル5

*2:86巻ファイル2

*3:86巻ファイル9