当ブログをご覧いただきありがとうございます。今回は名探偵コナンの本筋ではなく、コナン界隈で毎週水曜午前0時頃に話題になる「早バレ」について整理したいと思います。内容については可能な限り正確に記載するよう心がけるとともに、適切に根拠となる法令や公的機関の見解等を付しております。
早バレの現状
早バレとは、何らかの作品を発表元が公にする前に、SNS等を通じて不特定多数の人が見られる状態にすることだとここでは設定しておきます。名探偵コナンでは、サンデーが電子版で配信される前に表紙や本編の画像、写真等をツイートする行為がこれまでも複数回確認されています。
早バレが起こる理由
早バレが悪意を持った人による不法な理由で行われていると思っている人も多いかと思いますが、実は日本の雑誌流通システムが影響しており、何者かが早バレによって利益を得ようと考えて発生している例はそう多くはないというのが私の見解です。
そもそも、最速でサンデーを一般の人が読めるのは、うぇぶりではありません。
パターンはいくつかありますが、まずは出版社から取り次ぎを通じて書店やコンビニに届くのは、水曜日よりも前だからです。
例えば、徳島県では伝統的に雑誌が早く発売されています。
「週刊少年ジャンプ」の“早売り” 徳島の“ローカルルール”見直しとは(河村鳴紘) - 個人 - Yahoo!ニュース
リンクが切れているかもしれないので、内容を「引用」させていただきます
(前略)徳島の知人が言うには、やはり徳島県でも駅で金曜日にジャンプが買えたそうです。地方の場合ですが、貨物列車で輸送しており、結果として駅がフライングの“拠点”になっていたのではないでしょうか。同じように「早売り」のジャンプを買っていた人は少なくないはずです。
もう一つ言えば、東京でもジャンプを金曜日に入手できました。また発売日前の入手ができるのは他のマンガ誌でも同様でした。雑誌を「早売り」している店を探し出すのですが、出版関係者も仕事として情報収集を兼ねて、同様の店で書籍を買うわけです。
この内容は徳島新聞でも取り上げられています。有料記事であり、リンクが正しく機能しているかどうか分かりませんが記載しておきます。
週刊少年ジャンプの発売日が土曜から月曜に SNSで徳島県民の嘆き節相次ぐ
また、この件について同県の飯泉知事も言及されているとのこと。こちらは元ツイートが既に削除されているようですので、togetterの魚拓を張っておきます
#徳島 飯泉知事【消費者庁の徳島移転なぜ?】ジャンプを早売りする徳島は消費動向に敏感 - Togetter
徳島県やかつての東京都ほどではないですが、現在でも雑誌の発売前に雑誌が買える店を探すのは比較的容易です。
上記の記事にあるように、出版社側はもちろんきちんと発売日を守るよう求めています。しかし、長年の商習慣の影響で、事実上売る側(ここでは、出版社や取り次ぎ、書店等とします)が早バレを許容しているというのもまた実態です。
こうした環境で過ごしているために、正規の発売日より前に入手できていることに問題意識がなかったり、他の地域でも同じ事情であるからSNSに出しても大丈夫、というように思ったりしている読者は、実は少なくないのではないでしょうか。
悪質なものもる
とはいえ、極めて悪質なものもあります。名探偵コナンでは、うぇぶり用と思われる電子版が火曜日に流出していたこともあります。こうした行為は、今回の早バレに関する消費者モラル的な文脈や、著作権という範囲の議論ではなく、不正アクセス禁止法*1に違反する手法で入手していたりする場合があります。
また、流通に関わる人が業務上知り得た情報を漏らした場合は雇用主との労働契約違反となり民事上の責任を問われたり、不正競争防止法2条第1項で処罰される場合があります*2。第三者が入手したものが不正と知りながら流通させ会社に損害を与えた場合は偽計業務妨害罪*3等に問われる可能性があります。
このような行為は論外であり、今回の記事では、こうした組織ぐるみの不法行為については言及しません。
一方、先に述べた地域によって自然と発売日前に入手できるという実態は、厳密に言えば是正されるべきだし、責任ある主体がきちんと対策を講じれば解決できる問題だと思います。
しかし、こうした要因で数十年続いてきた早バレを取り締まるのは、法令やインターネットモラルの範疇にとどまらず、雑誌をとりまく環境や出版文化、地域の事情、あるいはインターネットがこれだけ発達した状況による規制の必然性などといった様々な問題を巻き込みます。
ツイッター等で早バレを見て批判するのは健全な反応とは思いますが、無意識にそうしたことが起きてしまう背景は単純なものではありません。
もう一つの早バレ
これまで早バレが起こる外的理由について整理しましたが、長く週刊誌を読んでいる方からすればある意味常識かもしれません。漫画以外の週刊誌では、早刷りという印刷会社に行く前の原稿が流出することがしばしばあるくらいです。
なぜわざわざ触れたかというと、インターネットの普及がもう一つの早バレ、つまりSNS等によって早く入手した人によって内容が可視化されるようになるという状況につながるからです。
インターネットの普及と雑に言ってしまっていますが、もっと正確に言えば、誰もがカメラで撮影した鮮明な画像やスクリーンショットを簡単に発信できるようになったこと、と言い換えられます。
それ以前、地域性による早バレはせいぜい翌日の朝、学校で回し読みされたり、仲の良い人どうしで貸し借りする程度。不特定多数に内容が発信されることは到底なかったったのです。
インターネットが普及していた2000年代後半~2010年代の初めごろでも、いろいろな作品で早バレに関する問題意識はありました。ただ当時はテキストでの早バレが中心で、ページや画像、イラストが丸々高画質で共有される状況ではなかったように記憶しています。一般の人が今のように鮮明なネタバレ加増を何枚も投稿できる環境にあったかは疑問です。
それが、2020年代に入るといよいよ誰でも可能となってきました。iPhoneで高画質の写真を撮影したり、高精細なモニターのスクリーンショットできるようになったことで、従来オフラインコミュニティでとどまっていた作品そのものの早バレが表舞台に出てきてしまったと考えています。
こうして、サンデーでは水曜午前0時より前に情報が出る「早バレ」が問題となり、年々批判が高まっています。
早バレと著作権
小学館の公式見解は下の通りです。
小学館に限らず、出版社が求める自社作品の利用ガイドラインについては様々な意見があります。場合によっては、文化庁の方針*4以上に厳しい制約となっている場合もあります。最近では、キン肉マン事件でも話題になりました。
今回は著作権法そのものについての言及は避けますが、出版社やその中の編集部による行き過ぎた表現活動の規制が、作品そのものにデメリットを与える事例もあると感じています。
SNSではアイコンや画像ツイートなどについては実質的に無法地帯となっているほか、漫画の吹き出しを変えてネタにするのもすっかり定着しました。
また、著作権法上、二次創作であるはずの個人が書いたイラスト等についても、著作権者の判断で一方的に削除を求められるリスクも内在しています。
こうした規制のあり方については私のような素人が意見を強行に主張したり、逆に作り手側が法律に基づかない過剰に規制をかけないのが一番いいような気がしています(感想レベルになってしまいすみません。)
早バレをシミュレーション
では、ツイッター等のSNSでよく話題になる早バレパターンをいくつか考えてみました。
①『今回の事件の犯人は●●だった!』(投稿時間 火曜日19時)
よく見る早バレです。早く店頭に並んだ雑誌から情報を入手したので、正規の時間より前に投稿してしまうケースです。
ただ、入手できる状態にしているのは読者ではなく、読者に届く前までの話なので、読者の刑事責任を問うのは難しいと思います。SNS上で激しく批判している人もいますが、読者それぞれのモラルに委ねざるをえないのが現状です。
また、テキストベースでの著作権侵害は、漫画、小説等のテキストを主たるコンテンツとした丸写しです。このツイートでは漫画の会話文や吹き出しをすべて明らかにするといった行為ではないため、これだけで明確に著作権侵害になるとはいえないと思います。これを著作権侵害とするならば、サンデー発売後の伏せ字ツイートや映画などのレビューサイトが機能しなくなり、社会的な不利益が大きくなります。
なお、先に述べているとおり不正アクセス等で得た早バレをリリースするのはもちろんだめです
②『今回の事件の犯人は●●だった!』(投稿時間 水曜日0時半)
これは早バレにも著作権法にも抵触しません。モラルの問題と整理するしかなく、こうした情報の是正を求めても正当性が薄いと思われますので、受け手側が各種SNSを工夫して利用することが求められます。
③『今回の事件の犯人は●●だった!』と書いて、漫画4ページ分の写真を添付(投稿時間 火曜日19時)
①と同様に、正規の時間より前に得た情報を不特定多数が見られる状態にしていますので、早バレにあたります。加えて、また、4ページ分の画像を添付するのは著作権法上の除外要件にはあたらないと思われ、同法に抵触する恐れがあります。
④”サンデー読了。あやしいと思っていたXXだが、コナンがおっちゃんを眠らせて「~」と解説。そのあと▲▲を指摘したら●●が「・・・」と言った。”(以下、本文吹き出しの内容を全部書く)(投稿時間 水曜日0時半)
著作権法上の「引用」は、作品の内容ではなく作品の内容に対する感想や意見が主たる内容であることが求められています。漫画でも、吹き出し内の大部分をそのままツイートすると、著作権を侵害する場合があるので注意が必要です。
不幸な結末は避けたい
冒頭に言及したキン肉マン騒動ですが、参考記事は下記の通りです。
この騒動の中で集英社側は、ネタバレについて下記のような考えを示していました。
たとえ軽い気持ちであったとしても、漫画のスクリーンショットをSNSやブログに著作権者の許諾無く投稿(アップロード)する行為は、法で定める一部の例外(※)をのぞき、著作権の侵害にあたり、場合によっては刑事罰が科され、あるいは損害賠償請求の対象となります。悪質な著作権侵害、ネタバレ行為(文章によるものを含みます)に対しては、発信者情報開示請求をはじめ、刑事告訴、損害賠償請求などの法的手段を講じることもありますので、ご注意ください。
※著作権法上の「引用」の条件を満たす場合など。
後段に言及がある〈悪質な著作権侵害、ネタバレ行為(文章によるものを含みます)に対しては、発信者情報開示請求をはじめ、刑事告訴、損害賠償請求などの法的手段を講じることもありますので、ご注意ください。〉ですが、これによるとネタバレに法的措置を取る可能性があるということで、キン肉マン読者が混乱しました。
後に同社側は、悪質なネタバレ行為に対処すると補足しているとの情報がありますが、この文章だけでは単なるネタバレ行為も対象になると読めます。現在にいたって、誤解を招く表現が残っているのは正直いただけません。
個人的には、法令等で定められているルールを遵守するのは当然として、明文化されていないルールまでを双方が無理に明確化する必要はないのではないかと考えています。つまり、読者側が著作権の侵害をしない、誹謗中傷行為をしないということを意識しつつ、現在の環境を維持していくのが最適ではないでしょうか。
キン肉マンのような不幸な騒動は避けたいですよね
この原稿を書き始めた当時は、有名発信者のネタバレや著作権侵害が問題になっていました。そのあおりで、法的にも道徳的にも問題がないはずの行為まで批判され、コミュニティ全体で自主規制する方向になっていたことを危惧していました。
2023年7月現在では、こうした懸念はある程度払拭され、各自のSNSのコンテンツ管理や使い方の工夫で改善しているように思います。コナンはあと15年続くのは堅いと個人的には考えている(笑)ので、今後もこの環境を続けていきたいですね。