ラム編に終わりは来るか ー 老人たちの登場で深まる混迷

ラム編に終わりが見えない。FBI連続襲撃事件でラム=脇田が判明してから久しいが、正直それ以降ゼロ進行だ。

羽田浩司殺害事件の真相も明らかになったが、内容はこれまで示唆されていたことや、多くの読者の予想の範囲内だった。

そもそも、羽田事件の真相が分かったところでラム編の終わりには近づかない。ラムが討伐されるか、ラムの正体が登場人物と読者の間で共有され、次の謎が出現するような状況にならないと、ラム編が終わったとは言えないだろう。

連載スピードが極端に遅いため仕方がない部分もあるが、ラム編に明確な終わりが来ないまま、謎の老人編に突入している気配すらある。

京都での事件で黒田やコナンらと遭遇した人物(呼吸器老人)

「所詮警察なんぞ…」「愚鈍な輩が群れてるだけよ…」

ファイル1090(103巻)

ホテル事件で世良とメアリーを見た人物(呼吸器老人)

運転手「御覧になれらましたか?」

老人「まるで夢を見ているようじゃわい」

ファイル1096(103巻)

キッドを追い払ったコナンのニュース記事を読んだ人物(杖老人)

杖でスマートフォンを叩き割る

103巻ファイル10

新幹線で安室と接触した人物(杖老人)

江戸川コナンを調べ上げろ…骨の髄までな…」

ファイル1115

「3人のうち1人が敵」プロットの脱構築、あるいは限界

名探偵コナンは長らく、3人のうち1人が敵を当てるゲームを繰り返してきた。ベルモット編、バーボン編、そしてラム編。候補者になるともれなくメインキャラ入りというおまけ付きだ。

このプロットを組織対コナン側の戦い(いわゆる「本筋」)の基本的な語りの方法に位置付けたことで、日頃コナンらが遭遇する事件(いわゆる日常編)と本筋を両立しやすくなる効果があった。

ラム編は、こうしたプロットの脱構築になるのだろうか。

コナン組織編の基本構造を以前書きのように示した。

  1. 誰を当てればいいのか示される
  2. 候補者が明らかになる
  3. 日常編と同時進行で少しずつヒントがでる
  4. 対決する

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ラム編をこのステップに照らしてみると、正直4まで完了していると言える。ただし、あくまで読者側の視点で、ということだ。

ラム編がこれまでの組織編と異なるのは、コナンがいまだ敵の正体に気がついていないどころか、明確に疑ってさえいない点である

過去の組織編を振り返ると、ベルモット編では単独でベルモットをおびき寄せ、危機を脱している。

バーボン編では、コナンは早々に安室を疑い、バーボンであることに気がつく。読者とほぼ同じタイミングだった。バーボン編自体がコナンと赤井で合作された組織編でもある。

それが今回は、読者のほうがかなり早い段階で脇田=ラムと認識してしまった。

当面、コナンらより読者が大幅に先行する状況は続きそうだ。加えて、謎の老人たちが登場。これが、名探偵コナン組織編の基本構造の「脱構築」なのだろうか。それとも「限界」あるいは「機能不全」なのだろうか。

この問いを、コナンの本筋が終わりに近づいているのか、引き延ばしによる弊害なのかという時間軸の問題に置き換えて考えたい。

ラスボス以外に新たな敵はいらない?

脱構築だとすれば、背景にはこれからのコナン本筋が今までのように新しい敵を当てるゲームではなくなることがありそうだ。

ラムは組織のナンバー2との触れ込みで登場した。ラムはこれまで登場した組織メンバーと比べても、組織に相当前から関与していることや、APTX服用疑惑もあるなど、名実ともに主要幹部である。

これほどの人物が出た後なのだから、もはや次に出す組織の構成員はラスボスである「あの方」しかいない。組織のボスとされる烏丸蓮耶が相当な老人であるとすれば、老人のうち何者かが烏丸?あるいは烏丸と関係するのか、という想像もかき立てられる。

ラム編の終わりが見えないことは、名探偵コナンの作品全体が終わりに近づいている証かもしれない。

やはりこれまでのプロットの踏襲かも

逆のとらえ方もできる。謎の老人が登場した現在を「老人編」と位置付け、ラム編との区別をわざとあいまいにしているのではないか。

まだ老人がそれぞれ敵か味方かすらわからない。安室との接点があり、コナンの正体を探るなどの行動は見られるが、具体的な目的は不明だ。

いままでの組織編が冒頭で「バーボンが来る!」「ラムが危ない!」と宣言していたのに比べるとすっきりしない。

そもそも、ラム編は、黒田がしばしば言及する「大事」がクライマックスであるはずではなかったのか。

ここ最近の話では大事の気配がない中で、老人編として新しい本筋を動かしたのなら、狙いは何か。

結局、作品そのものではなく、作り手側の現実世界での事情が作用している可能性はある。引き延ばしのため、謎解きとしてのラム編が終わっているのに別の謎を追加したり、作中の人物たちが真相にたどり着かないようにしたりしているとも考えられるだろう。

前例にとらわれすぎないのが大切か

コナンはラム編までの3つの組織編の基本構造があまりに美しかっため、ついつい前例を参考にしがちだ。ただ、名探偵コナンを取り巻く環境は今後ますます変わっていく。

その中で、いままではこうだったから、今回もこうに違いない!と思い込まないことが大切ではないか。

もちろん、推理マンガとして、あるいはミステリーとして基本的には踏襲される原則もある。そうした部分と、コナンのストーリー展開を踏まえつつ、ただの想像や可能性の提示だではなく、こういう根拠のためにこうした展開がある、といった考察を意識していきたい。

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